text:イオ・ガロンの場合_1
「ふざけんな! テメーみたいな自制の利かないクズはこのバンドにゃ要らねえんだよ!」
「お前より上手いベーシストなんて、この街に探せばいくらでもいるしねえ」
「っつーわけであばよ!」

その言葉を聞いたのを最後に意識は途切れ、目覚めてみると自分の体はゴミ捨て場……の回収されていない大量のゴミ袋の上にあった。
ちょうど粗大ゴミって言葉が相応しい具合に仰向けに投げ出された状態だ。
視線の先には薄汚れた建物に囲まれた、クソッタレなこの街ウォーキーウィルダスには不釣り合いの夜空。
…………、
……。
……なあ、
今これを読んでるアンタに訊きたいんだけどさ、
その場のテンションに身を任せてうっかり取り返しのつかないことをしでかしちゃったって経験、ある?
自分の場合は、たった今それでバンドをクビになった。
大まかな流れとしては、ライブの真っ最中に演奏をほっぽり出してムカつく客を愛用のベースでぶん殴ったら、それが他のメンバーの逆鱗に触れて今度は自分がそいつらに殴られて、そのままゴミ捨て場に文字通り捨てられたって感じ。
ああ、またやっちまった、これで何回目だろう?。投げ出された体はそのままに、そんなことをぼんやり考える。
自分には昔から癇癪の気がある。そのうえピラニア混りだからか、血を見ると気が昂ってしまう体質だ。
癇癪とピラニアの【混り】。最悪の組み合わせだと思う。下手をすると自分でも歯止めが利かなくなる……というか、自制できたことの方が少ない。
いわゆるコンプレックスなので治そうと自分なりに努力はしているし、精神安定剤――誤解を招くかもしれないから言っておくけど、病院で処方された至極真っ当なやつだ――も常用しているのだが、
改善の兆しは一向に見えずかれこれ10年くらいはこんなザマだ。
おかげで他人と関わるのが怖くなってしまって、酷いときは何気ない会話もままならない。常に挙動不審なヤツっているだろ?自分もたぶん、あんな感じ。
ガキの頃はもっと自分は上手に生きられると思っていたけど、どうやらその予想は大きく外れてしまったらしい。
殴られた頬が痛い。体を動かすのも面倒だ。もういい、今夜はこのまま寝てしまおう……。




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