text:イオ・ガロンの場合_2
「起きろよ、イオ・ガロン。」
意識が夢の中に入り込もうとした頃、それは唐突にやってきたその言葉によって一気に現実に引き戻された。
目を開くと目の前には今にも死にそうなニヤけ面――そう形容するのが一番だと思った――の男がいた。
【陸人】だろうか、髪がある。青いその体にまるで反抗するかのごとく紅い。
「……だ、誰だよ、あんた。ていうか、なんで自分の名前を……?」
思ったことをそっくりそのまま言葉にしてみたが、男は気に留めずに話を続ける。
「観てたぜ、お前のライブ。野次飛ばしたヤツをぶん殴ったのにはマジでウケた! お前最高!」
男はさっきからずっとニヤニヤと薄ら笑いを浮かべている。自分が言うのもアレだが、何かヤバいモノでもやっているんじゃないか。
おかげで本気で褒めているのかそれとも茶化しているだけなのかがわからない。
「……だから?」
「こんなところで寝てるってことは、どうせあのバンドクビになったんだろ?」
ニヤニヤケタケタと無邪気に笑い図星を突く彼と、
「だだだ、だったら何なんだよ!ほっといてくれねえ?!」
思わず声を張り上げる自分。傍から見たらきっと滑稽なことだろう。
「簡単なことだ、次は"オレら"とバンドやろうぜ。ちょうどお前みたいな、どうしようもなくぶっ壊れたベーシストが欲しかったんだ」
「……は?」
突然のことに呆気にとられたこちらの答えも聞かぬままに、彼は右手を差し出し、そして言う。
「オレの名はフィルモア。100年後の明日まで、オレたちの存在を証明してやろうぜ」
依然笑みを湛えたままの男の顔が、にいい、と一層深く笑った。




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