text:天使落下記念日_1
「こういう天気のいい日は作曲にもってこいってカンジだよねー」
ラジオやテレビドラマで知った台詞を、意味もあまりわからずにいかにもそれっぽく独り言で呟く、大人ぶっている子どもにありがちなシチュエーション。
防寒服に身を包み、背中には家の物置部屋からこっそり拝借した紅いギター。
「もしこのギターに何かあってもそれは一緒に遊んでくれなかったおじきが悪いんだからおあいこってことでー」
そんなことを言いながら少女は山の中を進み峰を目指す。雪に反射する日光が眩しい。
前日の猛吹雪のおかげで此処、レッドキャニオンのファエル領域は大地、木々、建物、他にもおよそ外にあったものはすべて雪に覆われ一面の銀世界と化していた。
久々の帰郷と遊び盛りの年頃。そんな彼女にとって、この機会を逃すわけにはいかなかった。
しばらくざく、ざく、と雪を踏みしめる感触を楽しみ、切り株に腰掛けて拙い手つきでギターを弄り、そして野生のユキやチリーの子どもと戯れている際中に、それは起こった。

――――ぼすっ。

何かが落ちるような大きな音。驚いたユキとチリーが一目散に山の中へと逃げ帰る。
木から雪の塊が落っこちたのかな?。少女はそう思いながら音のした方向、つまり、ちょうど自分が目指していた峰――もう目と鼻の先だ――を見る。そしてすぐに自分の予想が外れたことを確信した。
うつ伏せの状態でカービィが倒れている。薄紅の体が雪の中に半分沈んだ状態から微動だにしない。どうやら気を失っているのか、あるいは。
「ありゃ、たいへん」
少女はそう言って駆け寄り、見たところ自分とあまり変わらないサイズのその体を雪の中から起こしてやると、あることに気が付く。
側頭部から背中にかけて生える3対6枚の翼。頭の上には淡く輝く光の輪。ここは山の頂、見上げてもそこに在るのは青い空といくつかの雲のみ。
そうだ、これはまるで……。
「天使ちゃんだ」
いつもの表情はそのままに、しかし確かに好奇心に満ちた声で、少女はそう呟いた。




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