text:火花
炉の中で発生しそしていずれは燃え尽き死ぬ。
火花竜と呼ばれる彼の星霊としての本来の一生はその程度であり、現に同族たちはそのことに対して何の疑問も持たず炉の中で身を寄せ合い熱を食べ、
時折悪戯に火花を散らしては製鉄職人の顔や腕に小さな火傷を負わせるのが常であった。
しかしある日彼は己が他と違っていることに気が付いた。
ドロドロと融解する心地よい灼熱に包まれ己の意識もまたその中に沈む一方で、彼は視覚を介さずまるで己が己で無くなったかのように【それ】を見上げていた。
お世辞にも立派とは言えない使い古された炉の中こそが彼の世界の全てであった。
発生してから現在に至るまで炉の外を知らない彼には【それ】の正体は見当もつかず、同胞たちに尋ねようにも彼ら――無論彼自身も含めて――は言語を持っていなかったためにそれすらも叶わず、
たとえ叶ったとしても姿も中身も似通った彼らから明確な答えが返って来るはずもなかった。彼は仕方なくいつものように名も知らぬ職人たちに小さな悪戯を散らせてはそのもどかしさを誤魔化した。
【それ】は彼の中で日に日に存在感を増していったが不思議と嫌悪感は無く、むしろ熱で構成された己の体とはまた違ったその得体の知れない燻りが彼の内面を暖かくくすぐった。
最近炉の火が安定している、火花竜たちの機嫌が良いのかもしれない。職人たちが口々にそう言い始めてからしばらく経った頃、彼はついに住処を飛び出した。
竜と呼ぶにはあまりにも小さく非力なその体を、竜と呼ぶにはあまりにも脆く儚い翼で導く。
ずっと焦がれ続けてきた【それ】を、すなわち青空を、夢ではなく己の目で確かめるために。
広がり始めた世界を前に、迷いは微塵もなかった。




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