text:無題vi_1
思い出したことがある。
あいつとはバンドを組む遥か昔に、実は一度だけ会ったことがあった。
その頃のおれときたら、今と違って随分とひ弱なガキだった。まだ右腕は一本しかなかったし、音楽なんてものに興味が無かったからドラムを叩いてもいなかった。
だから今と変わってないことといえば、体の色と外見、特に顔に対するコンプレックスくらいのもんだった。
いや、正確には顔のコンプレックスは当時のがもっと酷かった。化け物だの何だのって近所の悪ガキどもにいじめられたことが悪い意味で印象に残ってたんだ。
だからそれ以来おれは外出するときはバケツやボロ布を被るようになった。
兄妹たちと街へ買い物に行く時も、近所の公園で遊ぶ時も、とにかく他人の視界に自分が入り込む可能性のある機会には必ずそうしていた(正直、バケツが仮面に代わったくらいで今も似たようなもんだな)。
あいつと会ったのは公園でのことだった。時刻ははっきりと覚えてはいないが夕方だった。おれは一人で砂場で遊んでいた。
顔をバケツで隠していたにも関わらず、いや、今思えばバケツを被っていたからこそ、その日も街で悪ガキどもにいじめられて俺は不貞腐れていた。
悔しくて悔しくて、でも当時は今ほど力がなかったから、やり返すなんてできっこないってのがわからないなりにわかっていた。
だからその感情を何とか処理するための手段として、妹や弟たちのことも家にほっぽり出して一心に砂の山を作ってた。
砂をアンバランスな両手で掬い上げては一か所に集め、その作業を黙々と続け、そしてそろそろ完成しそうだなって頃に、どこからともなくあいつは現れた。




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